最近、他社が開発しているマイオスタチン阻害薬に関する臨床試験の結果が相次いで発表され、いずれもマイオスタチン阻害薬の筋肉維持効果が示されました。肥満症の患者さんを対象としたマイオスタチンの効果が示されたのは初めてのことです。
肥満症治療におけるマイオスタチン阻害薬
肥満症治療薬として使用されているGLP-1受容体作動薬は高い体重減少効果がみられる一方、同時に筋肉量の低下が起こる点が問題点となっています。マイオスタチンは筋肉の分解に関わるタンパク質で、マイオスタチンを阻害することで筋肉の維持が期待されます。GLP-1受動体作動薬とマイオスタチン阻害薬を併用することでGLP-1受容体作動薬の問題点をカバーできるのではないかと考えられています。肥満症を対象としたマイオスタチン阻害薬の開発は下の表のように複数社で行われています。
この表のいくつかの臨床開発で進展があったので今日ご紹介したいと思います。
Trevogrumab/ Regeneron Pharmaceuticals社
6/2に、セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)との併用によるフェーズ2試験の中間解析の結果が発表されました。それによると、セマグルチド単剤投与による体重減少のうち筋肉の減少が占める割合は約35%でした。マイオスタチン阻害抗体であるtrevogrumabを併用した場合、減少する筋肉量は半分以下になったということです。併用による体重減少効果に大きな影響は無く、脂肪の減少効果がより大きくなったということです。試験の詳細についてはこちらをご覧ください(LINK)。
Apitegromab/ Scholarrock社
6/18に、チルゼパチド(GIP/GLP-1共受容体作動薬)とマイオスタチン阻害抗体であるapitegromabの併用の効果を調べたフェーズ2試験の結果が発表されました。チルゼパチド単剤での体重減少は13.4%であったのに対し、apitegromabとの併用での体重減少は12.3%でした。その内訳は単剤が脂肪:筋肉=70:30であったのに対し、併用では脂肪:筋肉=85:15となり、より質の高い体重減少が観察されました。試験の詳細についてはこちらをご覧ください(LINK)。
また、Eli Lilly社のアクチビン受容体II型(※)抗体であるbimagrumabについても6/20~6/23に実施された米国糖尿病学会で発表が行われ、セマグルチドとの併用のフェーズ2試験において、より良い筋肉量の維持が見られたという情報もあります。
※マイオスタチンが結合する受容体
ペプチドリームでは、自社開発を進めている経口マイオスタチン阻害薬が動物モデルで有望な結果を得たことを昨年12月に発表しました(→詳しくはこちら)。マイオスタチンの筋肉を維持するという機能から考えて、GLP-1受容体作動薬との併用のアイデアは昨年初頭から積極的に各社が開発を進めていますが、これまで公表されていたのは動物データが中心で、肥満症の患者さんに対して実際に有効であることが示されたのは今月のことです。複数社のデータが発表されましたが、いずれも同様の効果が示されています。この、マイオスタチン阻害という機能がGLP-1受容体作動薬との併用において有効であることを示唆しており、ペプチドリームにとってもポジティブなニュースです。
他社の化合物がすべて高分子であるのに対し、ペプチドリームが開発しているマイオスタチン阻害ペプチドは私たちが知る限り経口薬として先頭を走っています。現在、肥満症のGLP-1受容体作動薬は注射薬ですが、経口薬の開発が進んでいます。将来的に経口GLP-1受容体作動薬との併用を見据え、ペプチドリームの経口マイオスタチン阻害薬は高い注目を集めています。
現在、ペプチドリームでは経口マイオスタチン阻害薬の提携交渉を進めており、今年の下期の提携をめざしています。

ペプチドリーム広報の沖本です
生命工学系の大学院を卒業後、出版社、証券会社をへて2020年にペプチドリームに入社しました。わかりやすくリリース内容や技術内容をお伝えしていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。